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主役・悪役から脇役までこなすマルチなベテラン声優|檜山修之

第37回コラム

  •  檜山修之さんは48歳の声優。アニメ『勇者特急マイトガイン』、『勇者王ガオガイガー』などで主役を務め、『幽遊白書』の飛影役、『ONE PIESE』のMr.3役などで知られる。正義感あふれるキャラクターから冷酷な悪役、ひょうきんな三枚目まで幅広くこなすマルチなベテラン俳優だ。これまでに出演した作品はテレビアニメだけでも軽く200を超え、ほかにもゲームの声あてや洋画の吹き替え、ラジオ番組なども手がけてきた。
  •  地元の広島県で、高校時代、放送部に在籍していた檜山さんは、そこで放送劇と出会う。劇中で、老人や僧侶、妖怪などさまざまな役を担当した檜山さん。声の芝居のおもしろさに目覚め、将来の職業として声優を意識するようになる。まだ当時は、声優の専門学校や養成所も少なく、広島という地方都市では声優に関する情報が乏しかったこともあり、高校3年生の檜山さんが目をつけたのは東京の『東京アナウンス学院』だった。しかし、上京して声優をめざしたいと家族に相談したところ、反対され口論に。「学費を出さない」と言われてしまったため、新聞奨学生として自活しながら東京アナウンス学院に通うことにした。
  •  東京にやって来た檜山さんは、杉並区にある朝日新聞の方南町販売所に配属される。販売所が契約していた木造のボロアパートに住み込み、食事は朝と夜は所長の奥さんの賄いつきという環境で声優を志すことに。新聞配達の仕事は週6日で、朝刊と夕刊の配達に加え、集金の仕事もこなした。毎日、朝3時に起きて、夜21時ごろに帰宅する日々。寝過ごすのが怖くて、徹夜で新聞を配ったこともあった。東京アナウンス学院では、新聞奨学生専用のクラスがあって、奨学生の新聞の仕事に合わせたカリキュラムが組まれていたが、「それでもしんどかったです。今思うといつ寝ていたのかわからない」という。
  •  新聞奨学生を経験したことで、心身ともに非常にタフになったという檜山さん。40度の熱を出しても仕事を休めず配達に行った経験から、「お金を稼ぐって大変なことなんだ」という自覚が芽生えたという。結局、そのときは配達の途中で仲間に替わってもらうことができたのだが、こと仕事を休めないという点に関しては、他人に替わってもらうことのできない声優という仕事にも通じるものがある。
  • 東京アナウンス学院を卒業したあとは、現在のアーツビジョンに所属することに。声優デビュー数年で人気アニメ『幽遊白書』で準主役級の飛影役を任されるが、それでも生活費を稼ぐため警備員や羽田空港での郵便の荷卸ろしなどいろいろなアルバイトをしていた。しかしどのアルバイトも、新聞の仕事に比べればとても楽に感じられたそうだ。
  • もちろん、苦しい話ばかりではない。新聞奨学生時代、集金のスキルに秀でていて、ほぼ毎月集金率100%という驚きの実績をあげていた檜山さん。とある事情で販売所の所長が交代したときのこと、その所長は檜山さんの集金率100%という数字を信じられず、本当に達成できるのか、賭けをする。賭けに負けたほうが勝ったほうに焼肉をおごるという賭けだった。当然、檜山さんの実力をよく知っていた販売所の仲間は全員、檜山さんに賭ける。結果はもちろん、見事100%を達成し、所長一人が販売所の仲間全員に焼肉をご馳走することになった。
  •  また、駆け出しの声優だったころのエピソードも披露してくれた。はじめてのオーディションのときのこと。会場にマイクが縦についているスタンドマイクが一本置かれていたのだが、マイクのどちら側に立ってしゃべればいいのかわからなかった檜山さんは、ガラス越しにスタッフがいるのが見える部屋のほうに向かって立ってみた。すると、審査員の一人だった、すでに業界の重鎮として知られるベテラン声優から「逆!」と、貫禄あるドスの効いた声で一喝され、激しく同様してしまったという。
  •  そんな檜山さんから新聞奨学生のみなさんに、「新聞奨学生になるということは、大学や専門学校の学費を前借するということ。途中で辞めると少なくない借金が残るという自覚はもっていてほしいです。ただ、やりきればひと皮もふた皮もむけるということは確かで、たいがいのことが苦にならなくなります」との言葉をいただいた。
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